SPCA で、不細工なほどかわいい犬を担当することになった。その名も「Chubb(ちゃぶ)」。
6ヶ月のロットワイラーとアメリカンブルドッグのクロス。捨てられた理由は「子供に飛びつく」。当時、まだ5ヶ月過ぎである。
子犬が飛びつきやすいのは当然だろう。しかし飼い主は何をしていたのか?結局犬のせいとなり、捨てられた。ひどい話である。その名前の由来を SPCA のスタッフに聞いてみた。「本当のところはよく分からないけど『ちゃぶ』って顔じゃなぃ?ほらっ」確かに。
改めて、ちゃぶをみて、あまりのひょうきんな顔に「まぁ、どうでも、いいよね!」と納得させられた。
ちゃぶの性格の良さは、はなまるだった。そして、トリートに対する興味もはなまる。アテンションをこちらに向けるのもそれほど難しくない。現在9ヶ月の FIDOよりも遙かにアテンションをこちらに向けることが出来る。ただ、他の対象物に興味を持ってしまうとさすがに怪力の持ち主であった。いづれにしても、まだまだパピーそのもので、その表情がぶさいくで、気持ちいいくらいかわいいのだ。
ロットワイラーというと、日本ではチョークチェーンという器具を首につけているイメージを持ち合わせてしまうと思うが、海外では以外とそうではない。そして、この子と会って、まさにその必要性がないことを再確認した。もちろん、大型犬ということで引っ張る力は強い。自分の手もあっというまに、赤くなってしまう(以前の飼い主はチョークチェーンを使っていたようだった)。
しかし、アテンションをこちらに向けることが出来たら、なみなみならぬ熱いアイコンタクトをもらうことが出来る。この長所を大事に育むことが出来れば、チョークチェーンの使用は必須ではない。
早速、ドッグウォークに取り組む。私は、ちゃぶの新しい家族の方とのお散歩が「引っ張る=お散歩」とならないように、配慮して歩いた。少なくとも、ちゃぶが引っ張ったとしても、自分は決してついていかない。これは、犬が引っ張ったら、必ずがんとして動かないという犬の引っ張り癖を改善するためのクラシックな方法だ。
そうやって、しばらく歩き続けると、目の前から SPCA のスタッフらしき女性がやってきた。「ちゃぶよね!」と近づいてきてくれたスタッフに「うん、そうだよ」と伝えると「この子のエネルギーを発散させるために、止まらずにどんどんあるいてあげて」と指導された。
僕は、何故自分がそのような歩き方をしているか?また、さもなければ、ちゃぶが、どの様に理解するかを説明した。スタッフは、もちろん、それについては納得してくれたが、私はここで、これまで見てきたシェルターに足りない重要な点に気が付いた。
里子を預かり、ローカル誌において里親を捜す活動をしている点は素晴らしい。また、飼われている動物の権利を守る活動も評価できるだろう。しかし、SPCA で預かっている犬を、私がお散歩を担当して、それが「エネルギーの発散」だけで終わってしまったら、この子は、新しい家族が見つかったとき、必ず引っ張り続ける犬になっているに違いない。そして、その後、ちゃぶが「問題犬」と呼ばれるようになること(扱われること)は目に見えている。確かに、ただの犬好きな人もお散歩をする場合もあるから、これは、難しい点ではあるとおもう。
シェルターとしてすべき事。それは、保管期間のケアーと、里親を捜すことだけではなく、さらに新しく家族に迎え入れる家族が、決して里犬を手放さないようなケアーを提供することも含まれるのではないだろうか。きっと探しに来てくれる方々は「前向きな優しい気持ち」に違いない。その気持ちを継続出来るように、その後の確実なアフターケアーも必須。その為に、預かっている間も「預かり側の意見」ではなく、里犬の今後の犬生を見据えたケアーが出来なくてはいけない。そこで、私たち専門家の存在について考えさせられた。犬の素晴らしさを伝えていくことは、捨て犬を減らすことにも必然的に繋がるのだ。この仕事に就いていることの重大さと、その喜びを同時に感じることが出来た。
ちゃぶ、ありがとね。
そして、初対面から3週間後、ちゃぶは無事に新しい家族に迎え入れられた。もの凄く嬉しかった。お家には成犬のロットワイラーもいるから、きっといい弟分になっただろう。彼が、その家族に見守られて、今後の犬性を大いに全う出来るよう祈った。
SPCA HP の左下の赤いのマークは、「小さい子供がいる家族はご遠慮下さい」というサイン。
今回、ちゃぶが捨てられた原因は「子供へのジャンプ」だったので、これは、アダプトされるときも条件になる。「過ちという汚名」を背負って、ちゃぶは再スタートをするのだ。
がんばってほしい。
(05.10.10)