12 .新しいパートナーとの出逢い

title
noimg
生後6ヶ月前後で犬の性格形成は確立する。 私たちはずっと、そう言い続けてきた。 「しつけは成犬になってからでも十分だ」そういう意見を持っている人は、まだ多いようだが、ボクもこの職業に就いていなかったら、恐らくそういう意見だったと思う。しかし、現実は異なる。 生後180日前後までの生活環境と与えられた社会性は、その犬本来の資質に加え、性格形成に大きな影響を及ぼすことは必須とされる。それは、大型犬だからとか、小型犬特有の・・・といった物理的条件を超え、犬の性格がどのように形成されていくのか?という観点からも判断することが出来る。 この度、日本の動物検疫制度(農林水産省管轄)が変わった。そして、2004年11月6日から新制度の施行がスタートし2005年6月6日から確定となる。 新制度の一番の目的は「狂犬病・レプトスピラ病(Leptospira)」への対策である。狂犬病が発生したことがある、つまり日本国が言う「指定地域以外」から犬を連れてくるときは、輸出国政府機関発行の証明書、輸出国でマイクロチップによる個体識別、狂犬病予防注射と狂犬病の抗体価の確認、輸出国での180日間の待機が必須の条件となる。 実は2004年夏、書籍の出版イベントのため、N.Y. を訪れたとき、私は「German Pinscher -ジャーマンピンシャー」というドイツ原産の犬に出会った。 最初に「犬らしい」と感じた。ドーベルマンをもともと飼いたかった自分であったが、現在拠点を置いている東京という土地柄と、自分の今のライフスタイルを考えると、大型犬を受け入れるだけの十分な環境作りは難しいと判断した為、断念した。 最近では Miniature Pinscher も大分増え、街中でも出会えるようになってきたが、自分はミドルサイズの German Pinscher に大変興味を持った。恋に落ちてしまったものは仕方がない。 生涯自分が深く関わってきた犬はこれまで全5頭。 小学生の時に初めて飼ったシェトランド・シープドッグ。この子は3歳の時に家に来て15年という生涯を遂げた。 次にカナダで出会ったイングリッシュコッカースパニエル。この子とは、トレーニングを通して3歳の時に出会い、同時に2歳のゴールデンと共に、勉学に努めた。そして、二人ともほぼ同時期に悪性腫瘍とリンパ腫に冒され、それぞれ七歳と六歳で別れを遂げた。 次にカナダで出会ったのがイングリッシュスプリンガースパニエルとコリー。彼等には、自分のこれまでの経験と知識を注ぎ込んで、つきあった。しかし、人間側の都合で、残念なことに別離を余儀なくされた。 もし次に自分が犬と暮らし始めるとしたら、その一生涯を自分で責任をもって担当したいと思っていた。 そして年末パピーが産まれたとの情報を入手し、再度N.Y.を訪れ、車で5時間余りかかるメリーランド州に住む、ジャーマンピンシャーのブリーダーに直接会いに行った。 3時間という長い面接を受け、私の生活環境からこの犬種を選んだ理由、収入等多岐にわたる質疑を受けた。そしてやっと、生後一週間のパピーに会わせてもらうことが出来たのだった。 ボクの次のパートナーはオスと決めていた。これについてはブリーダーからも質問されたのだが、一つ屋根の下、共に暮らす時のことを考えての決断だった。群社会で生きる犬は、リーダーの動向を、たとえ寝ていたとしても常時チェックしておく必要がある。そうすると、私が動くたびに犬はリーダーの行動を「チェック(観察)する」という“仕事”をする。その時、もしその子がメスであれば、恐らく私はその子の事を過剰に「どうしたの?」と気にかけるだろう。 それでは、縦社会が崩れてしまうだろうし、もっとも、私自身が気疲れしてしまうだろう。 つまり、その子が見ていようがいまいが、堂々と生活できるとしたら、今の自分にとって、オスでなければならなかった。 今回生まれた5頭の中に1頭だけオスがいるとブリーダーがいうので、早速対面した。子供を産んだばかりの親犬は非常に警戒心が強いため、先に親犬を外に出し、私はその子に会うことが出来た。 まだ生後7日ということで、手のひらサイズでしかなかったが、どの子が雄か直ぐに分かった。その時、私の顔は緩んでいた。そして、その子の両親、祖母、祖父の体格と健康状態をみて、まずはこの子を迎え入れたいと思った。 次にその子を日本に連れて来る準備をしなければならないのだが、そこで、今回の新制度の施行である。 早速自ら、成田空港の検疫所へ出向き、検疫官と担当者レベルで話をし、自分の状況と意図、そして事情を伝え、何か良い方法がないか調べた。 最短コースについては、まず生後90日になるまでに micro chip を装着する。そして最初の狂犬病の注射をうつ。摂取後30日後2回目の狂犬病の注射をうち、それから日本の農林水産大臣が指定する海外の検査施設で狂犬病に対する抗体価の検査を受け数値を調べる。2回目の摂取から180日間、出国まで自国で待機する。これが最短コースである。 単純計算をしても、最短10ヶ月になる。新制度下においては子犬を日本に連れ帰ること皆無であり、それは犬にとって最も大事な時期(生後6ヶ月まで)を共に過ごすことが不可能であることを意味した。 どんなに手続きを検討しても生後10ヶ月未満の犬は入国できない。原因は、無理な流通を経てきた子犬たちを扱うペットショップへの対処だと聞く。 生後8週弱で店頭に並んでいる犬達を見ると、いかに早い時期に親元を離されているか想像出来る。もし、今回の新制度が、そういった業者に対する処置の一つだとしたら、ボクは肯定しなければならない。 ここで二つの選択肢が残されたことになる。 一つは、狂犬病発生国以外でブリーダーを再度捜し、犬を連れてくる事。この場合、月齢に関わらず micro chipが入っていれば、問題なく入国出来る。 例えば英国からの入国は容易だ。残る 一つは、私自身が渡米し、共に過ごすことである。 考えた・・・DOGSHIP の事、自分のこと、自分に関わる周りの仲間のこと・・・ 犬のために海外に住む。 自分が自分でなければ信じがたいだろう。しかし、自分が DOGSHIP の Crew と皆さんに対して伝えていきたいこと、そして何よりもこれからの日本の犬文化のあり方と私自身の立場を考え、私は後者をとる事を決意した。 この判断はしかるべき選択だと思っている。 私はドッグトレーナーを職業としているが、指導者という立場だけではなく、自分自身も犬を「もっと感じたい」と思っている。 そして「犬との暮らし」を通して、さらに多くのことを伝えていきたいと思っている。 この子が日本に入国できるまで、私はこれまで自分が習得してきた全てを注ぎ込み、そして時間と空間を共有し、共に成長し共に帰国したいと思う。 そしてそれが、さらなる DOGSHIP の航海への追い風となりますように・・・ (2005.03.01)