白い長髪に、ジーンズ。素朴な笑顔に、優しいまなざし。これが、世界に認められたアートディレクター浅田克治だった。
私が彼に出会ったのは、2005年。New York に DOGSHIP INC を登記すべく、マンハッタンに滞在していた時、友人の紹介でユニオンスクエアにある妖艶なお店で、初めて出会った。彼が New York で、どれほど評価されてきた人であるか?は、私はよく理解していなかったのだが、ただ、「自分らしさが光る、自然な人」だな、と感じたのを、今でも覚えている。
N.Y. 在住30年の A.D. 浅田克治は釣りが大好きだ。だから魚も好む。しかし、彼は、マグロは魚ではなく、肉だ!と言い切る。彼の中では「頭から尻尾まで全て一度に食べることができるのが魚である」と、定義されている。だから、一度に食べれきれない魚は魚ではないのだ。自然を食す。生命を食す。であれば、頭から尻尾まで全て頂くのが生き物に対する感謝の気持ち。何となくではあるが、浅田ワールドが見えてきた。
彼は、今キャッツキルというマンハッタンから200キロほど、離れた町に住んでいる。そこに自らデザインした家に、年下の奥様と暮らしている。そして、先日ベイビーが誕生した。
数年前まで、そこには何もなかった。キャッツキルという街は、マンハッタンに飲用水を供給している事で有名であることからして、いかに自然が豊かな場所であるか?がうかがえる。彼はその自然に惚れこみ、毎週末、テントを構え、星空を眺めながら、そこに住む、うちを建てる、その為のデザインを考え続けたという。数ヶ月とかではない、数年間、毎週末続けたというから、あきれてしまう。
浅田ワールドは、そこで終わらない。彼はビールが好きだ。休みだったら、朝からでも飲みたいらしい。「もし、うちに泊まりに来るんだったら宿泊費はいらないからビールを一ケース持ってきて」と言うほど、ビールが好きだ。特に「Rolling Rock -ローリングロック」というアメリカ特有のビール。決して入手しにくいビールという訳ではない。彼が好きなのだ。好きなのだから他に理由はない。
去年、再婚した浅田氏。その女性の両親は、彼よりも年下という程の歳の差である。最初会ったときに、何かを感じたという。この時も彼のナチュラルな触覚は働いた。感じたものは仕方がない。感じたのだから。だから結婚した。
帰国した僕は、浅田氏がデザインしたという港区にある「麻布ハウス(写真上)」を訪れた。こんな所にあったの?というような奥まったところにある麻布ハウス。入ってみて思った。「理由などない心地よさ。彼らしい空間だ」と。まさに人が心地良い空間。そこに理由も理屈も何もない。ただ、その空間にいて、きもちいい。
私達の生活では、何事に付けて理由が必要だ。そして、実際聞かれる。でも、その時、自分の判断力に全てをゆだねることができるのは、きっと自分自身に根拠たる何か?があるからだと思う。彼は自分にナチュラルに生きているように見えた。だから、人にも自然でいれる。だからこそ、強いのだと思う。
私はよく「ナルシストでしょ?」と言われる。犬はナルシストであると、私は考えているのだが、人はある程度ナルシストであっていいと思う。自分の事を好きでなかったら、誰がそんな自分のことをすいてくれるだろう?我々人間は、自分のことを好きになる努力も、すべきなのではないか?誰だって、好きな自分でいたい。そうしたら、大好きな自分の自然な判断・フィーリングに、少しは耳を傾けられるのではないだろうか?最近私はそう思うようになった。だから、誰よりも自分のことを好きになれるように努力したい。そうでもしないと、人は強くなれない。自然にナチュラルな自分でいられるように。
(07.04.12.)
●浅田克治:http://www.asadadesign.com/
New York 在住30年 最高にカッコイイ趣味人&世界的アートディレクター
ティファニーのあのセンスのいい広告は、きっと見たことがあるはず。MoMA の建築デザインにも関わった事でも知られている。
● アザブハウス (麻布ハウス)
東京都 港区 麻布十番2-7-14 azabu275 1F