42. 守る

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この仕事について9年目。仕事中、初めて手術を要するほどの怪我をした。 様々な事象の相談・問い合わせを頂くようになった近年、依頼内容に応えられるよう、自分に出来ることに努めてきたが、ついに状態を一度リセットするときが来たようだ。 負傷したのは、主に右手。中型犬の歯がかすった際、特に二カ所からの出血が診られた。一カ所は、歯形のまま陥没し、皮膚が肉に食い込んでいる状態。もう一カ所は、3センチ程、縦に切れ、中の肉と骨が見えるほどだった。手を動かすと、患部が開き、中から血液と組織液が流出してくるといった感じだった。 既に夜になっていたため、その日は自分で緊急処置をし、翌日病院に向かうことにした。その時は、仕事内容を振り返る自分がいて「もっとこうしてあげたかった」「次はどうケアをしてあげたらいいか?」自問自答をしていたため、痛みは二の次になっていたのだが、今思えば、あの時の痛さは相当なものだったと思う。 翌日、まず私が支持している皮膚科の先生に会いに行き、完治に向けての前向きに意見をうかがい、次に去年もお世話になった整形外科を訪れた。まずはレントゲンを撮り、骨に異常がないかを確かめる。次に患部の最近の検査、そして採血し血液検査と続き、即効性のためにも抗生物質が入った点滴を受ける。 この時、ポイントとなったのは ・ 骨が折れているかどうか? ・ 骨まで犬の歯が達しているかどうか? ・ どの様な細菌が体内に侵入しているかどうか? ・ 菌の侵入に対する身体(白血球等)の反応はどうか? ・ 菌に感染していないか? であった。 それから、毎日点滴と消毒の処置が続いた。そして、24時間患部の痛みは続き、寝ていても目が覚めるほどだった。 4日後。状況が急激に悪化した。その時の血液検査の結果で、CPK((creatine phosphpkinase)=クレアチンホスホキナーゼ) と CRP (C反応性タンパク)の数値が基本値よりも高いことが分かった。 まず、CPK という数値が高いと言うことは、自分の場合、筋肉外傷があったことを意味し、CRP は体内で何らかの原因で炎症が起き、血液中でタンパク質が増加した事を示していた。つまり、自分の身体が、ウイルスや細菌などに感染していることを意味していた。また、この時、さらに患部の細菌検査と、血液検査を行ったのだが、この頃から、患部はどす黒く変色しカチカチになり、大きく腫れ、痛みもさらにひどくなった。この症状と同時に、毎日の患部の洗浄が始まった。 想像できるだろうか?患部にストローほどの堅い管をこじ入れ、抗生剤が入った液体で洗浄するのだ。約30秒。患部の深さは約3センチ。同時に、抗生剤が入った点滴をうつ日が続いた。点滴については想像しやすいと思うが、患部の洗浄の痛みは想像を絶する。 この時に摂取した細菌を培養した結果が、その後、わかった。それは、「黄色ブドウ球菌」、「Pasteurella multocida」の二つ。前者は、何処にでもある菌だが、問題は後者の「パスツレラ菌」であった。この感染症は主にヒトを除くほ乳動物の口腔内に常在するグラム陰性短桿菌で、ペット、とくにネコ、イヌ由来感染症のうち最も注意すべき感染症の1つであるという。その後、患部の炎症がなかなか治まらなかったため、患部を切開して洗浄する手術が必要になり、しばらくの安静が必須と言い渡された。そして、全てのスケジュールをキャンセリングすることになった。 今回、様々なことを感じ、考えた。 まず、同じようなことが二度と起こらないように、まずは自らを省みること。そして、一番は、Crew(スタッフ)のことである。共に航海を続けていく上で、今回のように、困難を極める依頼内容にぶつかるときが、早かれ遅かれあるだろう。その時に、仲間として、どの様にサポートし、守ってあげられるだろうか。どれ程、注意を払い、真摯に努めていても、何かしら傷を負う事があるかも知れない。この仕事は、トレーナーが依頼者のご自宅等に一人で出張し、伺うことも多い。そんな時、仲間としてどうやって Crew を守り、お互い志を高くしていられるだろう?考えた。 これまで、御依頼を頂いた際、お申し込み書を記入して頂き、その中に「予防接種の有無」についての記載欄があった。つまり自己申請での確認をしていたのだが、「噛む」ことが相談内容に含まれていた際、それだけで十分だろうか?いや、狂犬病等、予防接種の証明書を事前に提出頂くことで、「犬が噛む」という事象が、どれ程重大で危険な問題であるか?飼い主の方に自覚して頂けるのではないか?と同時に、この仕事では、ただの擦り傷が、今回のように感染症に発展することも考えられる。だとしたら、Crew を守るためにも、本船ならではの保険をもっと充実させるべきではないか?また、一人だけで思い悩まないよう、定期的に Crew 同士が集まり、今まで以上に報告・勉強会を行い、みんなで思いを分かち合う。他に何か!?何が!?出来るだろう・・・ 挑戦を続けていれば、必ず、何かが起こる。驚き、痛み、苦しみ、そして喜び・・・大事なのは、起きた事象をどの様に受け止め、次にどの様に活かしていくかだと私は思う。 最後に、今回の負傷に際し、多くの方に御迷惑とご心配をお掛けしたことをお詫びすると共に、御礼を申し上げます。私達は、大事な任務に就いているのですから、これからも自信を持ってお互い精進していきましょう。まずは健康第一です。 P.S. 写真は、痛みに耐える自分を見守る FIDO です。 (07.03.20.)