34. 父親

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私が目指す理想の男性像は「父親」である。 父の周りには、いつも人が集まる。集合写真を撮るときも、いつも彼は真ん中。飲み会に呼ばれても、乾杯の音頭をとるのは彼。スポーツ万能な彼は、地域のスポーツ競技会があると、いろんなチームから引っ張りだこだ。そして、最終的には、MVP をゲット。未だにジーンズをはきこなし、スーツ姿は、まさに往年の石原裕次郎のようだ。 その魅力は一体何なのか? 私は、小さい頃から「勉強をしなさい」と言われたことが一回もなかった。逆に「少しは休め」と言われるほどだった。 今思うと、それは、私の性格を踏まえた父親の配慮だったように思える。 一見、人前では一人目立ってしまっている父親。だが、実は、もの凄く周りに配慮をしているのではないか?と最近思うようになった。周囲の人を「気遣う」。そんな自然な配慮が、周りも心地良い。もしかしたら、女性が勘違いしてしまうのでは?と思うこともあるが、それを知ってか?知らぬか?父親の周りには、男女を問わず人が集まってくる。 過度な気遣いは、相手に不快感を与える。そして、自分のストレスにもなりうる。しかし、気を遣っていない「思いやり」は、相手にとって心地良い。これは、私が目指す「犬を飼っている人と飼っていない人との共存」のイメージに近い。 どうやったら、可能になるのか? 婚前、父は母とこんな約束をしたという。「どんな事があっても、冷蔵庫の中身は一杯にしておこう。そして、何があっても、子供達には何不自由なく思いっきり食べさせてあげよう」と。冷蔵庫というのは、食材で一杯にしておくのが良い。食材で満たされていたら、人の心は必然的に穏やかになり、人に優しくできるから・・・と、僕が成人を迎えた頃、そんな話を聞かせてもらった覚えがある。そして今、私はこんなに大きくなった。187.5cm。「大」という名前の通り、大きくなった。 自分の喜びにプライオリティーをおいたときの、喜びの大きさと、それを他の誰か仲間と共感出来たときとでは、価値の深みが違う。それは、人が一人では生きていけない、人に助けられて生きている証だと思う。 だから、「常に周りに感謝の気持を持ちなさい」と小さい頃から言われた。自分の周りの人のことを大事に出来るか否か?で、自分の喜びがどれほどになりうるか?が決まると。 完璧な人はいない。自分のことをさしおいて、人のことを最優先に考えるなんて、簡単ではない。しかし、周囲への配慮を前提に、自分の事を大事にすることが出来れば、到達点と、そこから得られる充実感は意味合い深いものになる。 確かに、父親は、車を運転していて赤信号でも突き進み「今の信号赤だったよ」という指摘に対し「オレはいいんだ」と言い切る事が出来る。ケガをすると「これはオレ独特の痛みだ」と誇示する。 しかし、「九州の女性は男性を立てる」といわれるように、実際手のひらの上で転がされているのは父の方である。女性は、そんな男性を汲んだ上で、全ての舵を取る。父親の言い分はこうだ。「母の舵取りも全て想定内だ」。 九州のそんな夫婦関係に、私は DOGSHIP の羅針盤を照らし合わせる。DOGSHIP に関わる方々、犬のことに関わる人々、多くの人が、これからの「犬との暮らし」を愉しめるように、自分に何が出来るか?考える。 父は、きなこ餅であれば、大きいサイズの餅を6個食べる。アイスクリームは2本以上。トーストは4枚以上。少しだったら、食べない方がましだと豪語する。「ご飯を半分残すような、中途半端で、身勝手で、人の気持ちも分からないような事はするな!」これは、小さい頃から父親が自分に与えてくれたメッセージの一つだと思う。「何事も思いっきり行け!」と(多分)。 幸いにも、父親はまだ生きている。 大病を抱えているが、生きている。 父親に今度会ったとき、胸を張って自分の活動について語ることが出来るよう、今日も信念という羅針盤を胸に航海を続けていこう。自分も周りも心地良い寄港先を目指して・・・そして、報告したい。 私の周りには、かけがえのない沢山の仲間がいる、ということを。 ※ DOGSHIP のミッション「人とひとをつなぐ 見えないこだわりと思いやり」は、父親の直筆です。 ※ 2010年10月20日 父は享年63歳で旅立ちました。温かいお言葉をいただきありがとうございました。 (2006.10.10)