「お座り!お座り!!」
犬に対して何度も同じ言葉を連呼する光景。聞こえているのか聞こえていないのか?全く反応しない。しかし、よくみていると耳が声と同時に動いているのが観察できる。これは、きっと聞こえているに違いない・・・ということは、無視されているのか!?
犬は「無視」という考えは持ち合わせていない。ただ、自分が「今」気になることがあるだけである。もちろん、飼い主のことも気にはなっているが「興味」という観点から、残念なことに、その瞬間「一番」ではないだけである。したがって、順番が来れば、必ず、飼い主の指示に従う。その反応が見えるまで、どれほどの時間が必要か?は興味の度合による。
犬の聴覚がどれほど優れているか?それも興味深い内容だが、それ以上に犬がどれほど「気配」に敏感であるか?という方が面白い。常々「犬はボディーランゲージのスペシャリストだ」と公言してきたが、これは科学や学問の範疇ではなく、犬を飼った事がある人であれば誰もが実感している事実だ。
是非、犬の普段の反応を見て、その事実を再度確認して欲しい。
あなたが、リビングでくつろいでいるとき、犬がこちらを見つめている。いつもだったら「どうしたの?」とか「かわいいね」とかって声をかけてあげているかもしれないが、試しに声を出さずに「○○○○○」と同じように口だけ動かして、声をかけてみて欲しい。
最初は「!?」といった反応を見せる犬もいるかもしれないが、なかには、いつもと同じような反応を見せてくれる犬もいるはず。あるいは、「なんていってるのだろう?」と、さらにアテンションを飼い主に向けて、何かしら反応を見せてくれるかもしれない。
今度は、犬が同じようにくつろいでいるときに、自分の足の指や、手首、どこでもいいから、自分の体の一部をわざと動かしてみてほしい。
犬たちの反応は?どうだろう。耳をぴくっと反応させたり、こっちを凝視したり、中には近づいてきたり、犬の性格と、飼い主とのリレーションシップの度合いによって、その反応は様々だ。もし、犬がそれらの動きにすぐに反応出来たとしたら、下記の可能性が考えられる。
・ 家族との強い絆が構築されている
・ 家族に不信感を抱いており、自分が家族を守る必要があると責任感に駆られている
・ 自分に自信がなく、家の中でも落ち着かず、ストレスをためている
犬は、今自分が興味を持つ情報を、常に収集しようとする生きもの。そこには、順序が介在する。
Vancouver では、off leash(リードをはずした状態)で散歩出来るところが多々存在する。そんな散歩コースで、FIDO が距離感を持ちすぎて、先に行きすぎたとしよう。そんなとき、すかさず近くの木陰に隠れてみる。そうすると、直ぐに FIDO は戻ってきて、その辺をウロウロして捜そうとする。
その時、もし私が息を潜めていたとしても、彼をじっと「みつめて」いたとしたら、直ぐにこちらの居場所はバレてしまう。これは、嗅覚を使用したのではない。「見られている」という「けはい」を感じる能力は、肉食獣本来の本能といえるだろう。
もちろん、事前にトレーニング(セントトレーニング・くんくんゲーム)を積んだ災害救助犬は、習得した技量(嗅覚)を武器に、更に効率よく見つけることが出来るだろう。
いづれにしても、犬は、犬である以上、犬種に限らず、そういった「気配」に鋭い反応を見せることが出来る(反応してしまう)。犬は、聞こえているし、そんなに何度も怒鳴らなくとも、聞こえている。ただ、その事象が、今、この瞬間、最優先されていないだけである。犬にとっての「一番」になる努力も大事だが、逆に犬の「毛配」を改めて観察してみるのも面白い。
犬がたくさん持ち合わせている「毛」を、もっと感じてみると面白い。
(2005.09.28)