新年の読み物「テーマ:フィジカル」

【犬のフィジカルについて思うこと】

スーツはビジネスマンの戦闘服という表現を耳にするほど、身につけるものには、当人の思いや意志が詰まっている。そして、身にまとったものを見る側の印象も鑑みると、「フィジカル」は、その人の生きざまを表す重要なツールになる。

ビシッと凛々しく立った耳。
甲冑を身にまとったような強靭なボディ。
意志の強さを体現しているかのような密集した被毛。

大型犬のように体つきがしっかりしている子や和犬のように立ち耳の子は、散歩中に遭遇する犬に吠えられやすいと相談を受けることが多く、それは必然といえる。

去年他界したフォトグラファー:エリオット・アーウィットも「どんな犬を連れているかということは、着ている洋服と同じくらい社会的な記号で、飼い主について多くを語るものだ」と言っている。

とはいえ、世の中には、穏やかだったり消極的な性格の犬もいる。目立ちたいわけではないのに、そっとしておいてほしいのに、必然的に目立ってしまう。その時、そこに「フィジカルとメンタルのギャップ」が生まれる。実は、このギャップが愛犬にとってのストレスとなり、興奮や衝動のキッカケになる。

犬にも「心」があることは、最新の科学論文を取り上げずとも、感受性の高い小学生でも周知していることだ。その心は、私達同様、身体と繋がっていることは疑う余地もない。アメリカ・ワシントン州警察犬の訓練に携わった経歴をもつデニス・ブラントンが提唱するコンパニオン・コンセプト・プログラムによると、①Health(健康) ②Obedience(しつけ) ③Socialization(社会化)のどれかひとつでも欠損すると、心身ともに健全な犬は存在しないとされる。つまり、それぞれは孤立しているのではなく、関連づいていて、影響しあっていることを示唆している。

確かに・・・私たち人間でも思い当たる人はいる。

どれほどフィジカルが優れていても、人との交流を持たずに育った人は、必然的に社会性は低くなり社会に馴染むのは大変だろう。

社交性があり、立ち居振る舞いが良くても、健康面に難があると、平穏を保つことは難しいだろう。

犬も同様で、生まれ持って強靭な肉体を与えられて生を受けても、上記の①~③のどれかひとつでも欠けていたり、不足し内面が不安定になると、そのギャップを埋める必要がでてくるのだ。

ギャップは、犬にとってのストレスとなり一般的に問題行動と表現される「吠え」「噛み」等、興奮系の行動に転化する。1930年代のハンス・セリエの研究に起源を持つストレス。本来であれば、犬は、過度なストレスを受けると「逃避」「回避」等の行動を選択する。自然災害が起きた際、動物が事前に状況を察知して、その場からいなくなることは最たる例である。家庭犬の場合、共生住宅やリーシで繋がれた散歩では、その時々状況回避ができないため、本来の行動を選択することが出来ず、結果的に興奮系の行動に転化したり、心的ストレスとなる場合は、皮膚の炎症、消化器不全となる傾向がある。

では、神から授かった立派なボディを活かすためにはどうしたらいいのか?私たちに何ができるのだろう?その答えは「内面を磨く」作業だと私は考えている。

では「内面を磨く」とはどういうことか?

日々、愛犬を見る度に「かわいいわね〜」と言葉が出てくるのは自然なこと。ただ考えてみほしい。それは、その子が「親から授かったもの」であり、私たち家族が関わり生み出したものではない。私たち家族が与えられるものはなんだろう?それはご飯や散歩といった犬たちが生きていくために必須な項目でもない。

シュミレーションをしてみよう。

犬との遭遇時、興奮し、力強く飼い主を引っ張り、吠えがやまない。

その時、あなたならどう対応するだろうか?

【シチュエーション例】

  1. 「ダメ!」といってリードを引っ張りがちだ。
    だって力が強いから・・・
  2. ご褒美を準備し、犬ではなくご自身にアテンションを向けるように努める。
    私のほうが魅力的だと伝えたいの。
  3. SIT 等のコマンドを出したいが耳を傾けてくれない。
    興奮時は聞こえないふり?をされる。

【想像できる結果】

  1. 引っ張る力は日々強くなっていく。
    作用反作用の法則で、フィジカルにフィジカルで対応すると、さらに興奮を助長する。
  2. 飼い主の魅力度は上がらない。
    愛犬と向き合うというよりもご褒美をあげることに注力してしまうため、興奮時は犬にとって「ご褒美<興奮」と映る。また、このご褒美の使い方は「賄賂」でしかなく、互いの関係性の構築は難しい。
  3. 練習と日常は条件が異なる。
    平穏時に練習する SIT は興奮時には伝わりにくい。

どれも、日常的なシーンであるが、愛犬の内面を磨くためには、今回は “C” を選択したい。そして、もう少し工夫してみよう。

例えば、背面や小声で練習する等、イレギュラーなシチュエーションにおける経験値を上げることができると興奮時の反応を獲得できる。また協業による成功体験は、愛犬のやる気を上げる。他の犬を見るとわくわく興奮してしまうが、飼い主が「落ち着いてごらん」と声をかけた時、ふと座ってみたら、落ち着くことが出来たという経験は、愛犬にとって飼い主との協業経験となり、「自分にもできる!」と自信をもてるようになる。

私たちは、こういった経験値を「コンフィデンス(自信)の構築」と呼ぶ。コンフィデンスは、「ある・ない」といった有無ではなく、レベルが「高い・低い」で評価する。コンフィデンスの構築が進むと、愛犬が自信を持てるようになりコンフィデンス・レベルが高くなる。

本やネットを見聞きしても、情報だけ入ってきて、身につけることは難しい。特に犬は「経験値からのみ」学習することができる生き物である。その経験に飼い主が関わり、その時々勇気づけをしてあげることで、日々コンフィデンスが構築され愛犬の「内面を磨く」ことができるのだ。

“確固たるフィジカルは、コンフィデンスが構築されてこそ本物に育つ“

さぁ、もっと愛犬の内面を磨いていこう!

「静かに!」「座れ!」といったステレオタイプの言葉をかけても内面は磨けない。

「落ち着いてみよう!」「よく座れたね!」と愛犬と同じ目線で行動を導いていこう。

私自身も、そんなリーダー的飼い主になりたいと思っている。

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